
私がこの農園に訪れた時、農園主セルヒオはまだここでの仕事を始めたばかりだった。
セルヒオの家から車に乗って山をひたすら上っていくと農園の入口に小さな小屋。
そこには消えそうな文字で「La Embajada」(ラ・エンバハーダ)と書かれていた。

【ラ・エンバハーダの入り口】
コーヒーが辺り一面、山を埋め尽くさんばかりにびっしりと植えられている。
道にはみ出てきそうなくらいに。

【生茂るコーヒーの木】
「これだけの木があっても今は年間20袋くらいしか収穫できないんだ」
とセルヒオが言った。
実はここ、ずっと放置されていた農園をセルヒオが買い取ったのだ。
長らく手入れがされていなかったので、一本一本のコーヒーの木からはわずかな収穫しかない。
すぐに続けて「あと数年すれば、すごい農園になる」と言ってニヤッと笑った。
「ほら、みてみろよ」と指差されたほうを見上げると、たしかにすごいオーラを放つ農園が広がっていた。

【空に向かって一直線に伸びようとするコーヒーとシェードツリー】
『まるでコーヒーが空を掴もうとしているみたいだ』
私はそう言いたかったが、とっさにスペイン語で言うことができず黙っていた。

この農園は、ヌエバ・セゴビア県のモソンテという地区にある。
過去のカップオブエクセレンスで1位入賞農園も輩出しているコーヒーにとって素晴らしい土壌に恵まれた場所。
セルヒオは、祖父と父から『エル・ポルベニール農園』『カサ・ブランカ農園』を受け継いだ。
「今度は【自分の農園】をこの最高の場所で創るんだ」
荒れた園内の道や労働者の住環境の整備をやらなくては。満足のできる収穫までは投資が必要だ。銀行にもお世話にならなければならない。
セルヒオは楽しそうに農園の現状とこれからのビジョンを語ってくれた。

【新しい区画を作る準備】
農園内に様々な品種を植えたコーヒー植物園のような場所を設け、どの品種が土壌に最も適合しているかを調べる為、苗の植え付けが行われていた。

【植え付け前のパッカマラ種】
「今あるのはカツアイ種だ。真っ赤なカツアイだ。この景色を見て育つコーヒーの味を想像してみろよ」。セルヒオは自信に溢れていた。
私はすぐにでもここで採れたコーヒーを飲んでみたかった。

【自宅のカッピングルーム】
帰ってからすぐに農園の飲み比べがしたいと申し出たが、残念ながらラ・エンバハーダのサンプルは残っておらず、このときは味わえなかった。

『このコーヒーが日本で飲める』そう思うと心が躍った。
アルミパックで真空状態にされ、最高の鮮度で日本に届いたラ・エンバハーダ。
一口飲んでその香味に驚いた。

見えたのは青い空と真紅の実、白い雲と光り輝く太陽。
農園に吹く風がそのまま喉の奥まで駆け抜けたようなさわやかな果実味。
厳しい環境の中でしっかりと根を張ったコーヒーだけが持つ力強いコク。
コーヒーの旨味だけを蒸留したかのような液体の集中力はニカラグア最高レベルだろう。

【農園で飲む珈琲は格別】
精製方法はダブルファーメンテーション。摘み取った後、果皮と果肉を付けたまますぐに乾燥工程に入り、少し発酵したところで果皮と果肉を除去し、発酵槽を使った通常のウォッシュトの工程へ。
精製終了までに2度の発酵が入るので【ダブルファーメンテーション】と呼びます。世界でも稀な珍しい精製方法です。
これによりナチュラルとウオッシュトを合わせたようなフルーティですっきりとしたクリアなコーヒーになります。
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